がんの脳への転移と
日常生活

転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)の診断と治療

治療法

放射線治療

放射線治療は、放射線が当たった範囲に効果がある治療法で、手術に比べて患者さんの体の負担は少ないです。

転移性脳腫瘍では、 脳全体に照射する「全脳照射」と病変にだけピンポイントに狙って当てる「定位照射」があります。また、定位照射には、1回照射(高線量)の「定位手術的照射」と数回程度に分割照射する「定位放射線治療」があります。それぞれの詳細については表1を参照してください。

放射線治療の実際は、手術との併用(全脳照射)や全脳照射、定位放射線照射それぞれ単独、あるいは両方を組み合わせる方法で行われます。

また、治療の有効性に関しては、原発巣のがん種で異なります。小細胞肺がん、乳がんは放射線感受性が高いとされています。

近年は、技術の進歩や治療後の認知機能低下の回避目的などにより、全脳照射が選択されることが少なくなっています。

(表1)全脳照射と定位放射線照射

  全脳照射(ぜんのうしょうしゃ 定位照射(ていいしょうしゃ
適応
  • 多数(5個以上)の転移がある
  • 大きな脳転移で、手術ができない場所にある
  • 髄膜癌腫症(脳転移のメカニズムを参照)
少数(1~4)個の小さな(3㎝以下)脳転移(ただし患者さんの希望や条件が合えば、5個以上でも選択されることがある)
治療法 3 Gyを10回(2週間)または2.5 Gyを12~15回(3週間) 18~24 Gyを1回(1日)または、6~7 Gyを5回程度(1週間程度)
利点 検査で見えない小さな脳転移も治療できる
  • 治療期間が短い
  • 副作用が少ない(正常な脳組織への影響が少ない)
欠点
  • 治療期間が長め(2~3週間)
  • 脱毛や宿酔などの副作用が起こりやすい。高齢者では物忘れなどが起こることがある
  • 照射から数日以内にけいれん発作が起こることがある
  • 照射していない部位から新しい脳転移が生じることがある⇒追加照射の可能性はある
  • 晩期に放射線部位の放射線変化が起こるリスクがある

全脳照射の照射範囲

左のイラストで色が変わっているところが全脳照射の範囲です。
放射線治療の副作用については放射線治療で述べますが、放射線が当たった範囲の正常組織に影響が及びます。

放射線治療と装置

放射線治療は、からだの外から照射する外部照射、からだの中に線源を入れて行う小線源治療、線源を内服したり注射をしたりする内用療法があります。

脳転移に対する放射線治療は、外部照射治療が行われ、「リニアック」、「サイバーナイフ」、「ガンマナイフ」、「トモセラピー」などの装置が用いられます。

装置 種類 特徴
リニアック X線、
電子線
  • 最も一般的な治療装置
  • がんに線量を集中させるための定位放射線治療、強度変調放射線治療など、さまざまな方法が開発されている
  • 治療回数は、全脳照射、定位照射で異なる
  • マスク固定
サイバーナイフ X線
  • ロボットアームの先端に小型のリニアックが装着された装置
  • 前後左右どの方向からも照射ができ、また、がんの位置が動いても自動的に位置補正がされる
  • マスク固定
  • 全脳照射はできない
トモセラピー X線
  • がんの位置の特定と治療ができる
  • らせん状に照射しながら強度変調放射線治療が可能
  • 1回で複数の病巣に治療が可能
ガンマナイフ ガンマ線
  • 頭部専用の治療装置
  • 治療回数は原則1回
  • 3㎝以下の病変が標的で、1回の治療で多数個可能
  • 治療中は動かないことが重要になるので、固定フレームを頭にピン固定が必要(局所麻酔が行われる)。ただし、近年はマスク固定で行える装置もある