がんの脳への転移と
日常生活

がんの脳転移と日常生活

治療の影響による症状とその対策

抗がん剤治療

抗がん治療薬の種類は数多くありますが、ここでは抗がん剤治療に紹介した「分子標的治療薬」について話を進めていきます。これらの薬の主な副作用は、肺障害(間質性肺炎)、皮膚障害、肝機能障害、下痢、口腔粘膜炎(口内炎)、骨髄抑制などで、症状の出現時期には個人差があります。ご自分の治療薬に出現しやすい副作用について、患者さんやご家族も知っておく必要があります。

■ 肺障害(間質性肺炎:かんしつせいはいえん)

肺障害を防ぐ有効な方法はありません。以下のような症状に注意し、症状が続くようであれば、かかりつけの医療機関に連絡をしてください。

肺障害(間質性肺炎)の症状の例

発熱、痰がでない咳、息切れ、呼吸がしにくい、など

■ 肝機能障害

肝機能障害を防ぐ有効な方法がありません。担当医による体調チェック(血液検査など)を必ず受けてください。また、以下のような症状が続くようであれば、かかりつけの医療機関に相談してください。

肝機能障害の症状の例

体がだるい、皮膚や白目が黄色くなる、尿の色が濃くなる、食欲低下、吐き気・嘔吐、からだがかゆい、など

■ 皮膚障害(爪障害)

皮膚障害は、かゆみや痛みなどの身体的苦痛のほか、皮膚の変化は外見の変化をもたらしますので、心にも負担を与える副作用です。

多くの場合、治療終了後、徐々に改善しますが、症状の程度によっては、にきび様の痕が残るなど、一部完全に回復できない場合もあります。そこで、早期に対応して症状をコントロールしていきます。

(表2)主な皮膚障害と解説

ざ瘡様皮疹(そうようひしん にきびの様なできものですが、にきびと異なり必ずしも細菌感染を伴いません。多くは、頭部、顔面、前胸部、下腹部、上背部、腕・脚などに出現します
皮膚乾燥 皮膚が乾燥してかゆみを伴います。進行すると皮膚が硬くなって、カサつき、手足の先端やかかとなど、ひび割れを起こしやすくなります
手足症候群(てあししょうこうぐん 手のひらや足底の部分的な紅斑から始まり、荷重がかかる部位の皮膚が硬くなって腫れたりします。痛みを伴うことが多く、進行すると水ぶくれを形成します
爪囲炎(そういえん 爪の周囲に炎症が起こり、腫れや痛み、亀裂などが生じます。治らないと肉芽(にくげ)が形成されます

皮膚障害の一般的なケアでは、「保清」、「保湿」、「刺激からの保護」のスキンケアが大切です。

  • 適切なケアを継続させるためには皮膚の状態を知ることが必要です。入浴時に全身の皮膚を観察すると良いでしょう
  • 皮膚を洗う時には、石けんは泡立て、丁寧に洗いましょう
    またその後は、石けんが残らないように洗い流しましょう
  • 乾燥を防ぐために、手洗いや入浴後は皮膚がしっとりしているうちに保湿ローションやクリームをたっぷり塗りましょう
    また熱いお湯(40度以上)の使用は避けましょう
  • 紫外線を避けるために、帽子をかぶる、日傘をさす、長袖、長ズボンを着用するなどして皮膚の露出を避けましょう
  • ケガや虫さされなどに気をつけましょう
  • 継続して圧迫をすることもよくありません。締め付ける衣類やヒールの高い靴などは避けましょう
  • アクセサリーを装着している時に皮膚が赤くなるなどの異常が出現したら直ぐに外しましょう
  • 室内の環境も大切です。空気が乾燥している時には加湿器などで湿度を調整しましょう

爪の障害の一般的なケアも「保清」、「保湿」、「刺激からの保護」を基本に考えます。

  • 手を洗う時は爪の間も意識して丁寧に洗いましょう
  • 手に保湿ローションやクリームを塗る時は、爪全体にも塗りましょう
  • マニキュアやトップコート、水絆創膏の使用後は、必ず手を洗い、保湿剤を塗りましょう
  • 爪が弱くなっている時は可能な限り手袋、靴下を着用しましょう
  • 爪は伸ばしすぎも深爪もよくありません。爪切りは正しい方法で、入浴後など爪が柔らかい時に行いましょう

爪の切り方

■ 下痢

腸の粘膜が障害を受けることで起こります。脱水や電解質異常などを引き起こしやすく、白血球減少時期と重なると重い感染症を起こすこともあります。

  • 下痢止めは、医療者の指示により使用しましょう
  • お腹を冷やさないようにしましょう
  • 脱水にならないように、こまめに水分をとりましょう
  • 脂っぽいものや食物繊維が多いものなど、消化に時間がかかるもの、冷たいもの、香辛料などの刺激物は避けましょう。また、乳製品も控えましょう
  • 肛門周囲の清潔を保ちましょう。また、ただれやすいので、温水洗浄の機能があれば使用しましょう。ない場合は、おしりふきウェットティッシュの使用をおすすめします

■ 便秘

一般的に食事量の低下や運動不足、精神的ストレスなどで起こりますが、抗がん剤や痛み止めなどの影響でも起こり、腹痛、吐き気やおう吐の原因にもなります。

  • 水分は朝の起床時や食間など、可能な限り多く摂取するようにしましょう
  • 食事は、野菜、イモ類、きのこなどの食物繊維を多く含む食品をとりましょう
  • 腸内細菌を整えるヨーグルトや漬物など発酵食品をとりいれましょう
  • 下剤は数種類あります。薬の選択や使用方法は医療者に相談しましょう
  • 便意をがまんしないようにしましょう

■ 口腔粘膜炎(口内炎)

口腔粘膜炎は口の中の粘膜がダメージを受けて、炎症が起こるために発症します。治療終了後に治ることが多いですが、感染の原因になったり、食事の摂取に影響したりしますので、ケアが大切になります。

一般的ケアの基本は、「口の中を観察」、「清潔に保つ」、「潤す」、 「痛みをコントロールする」です。

  • 口の中を観察しましょう。口腔粘膜炎の好発部位は、「唇の裏側」、「ほほの粘膜」、「舌の周囲(側面)の粘膜」です
  • 歯と歯ぐきの境目、歯と歯の間、かぶせ物との間などが、汚れがたまりやすい場所です。できれば歯磨きをする時には、鏡を見ながら丁寧に行いましょう
  • うがいは1日3回以上、できれば8~10回程度行うとよいでしょう
  • 体調が悪い時や、吐き気などで歯みがきができない時は、トイレの後など、からだを動かした時に口をゆすぐようにしましょう
  • 口の中の乾燥を防ぎましょう。うがいをしたり、歯磨き後でも保湿剤を使用したりするのもよいでしょう。
  • 痛みは症状に応じた鎮痛剤を使用します。医療者に相談しましょう
  • 痛い時は、熱いものは避け、人肌程度に冷やす、塩分や酸味の強いもの、香辛料などの刺激が強いものは控える、やわらかく煮込んだり裏ごしをしたりするなど工夫しましょう

■ 骨髄抑制(こつずいよくせい

からだの抵抗力が弱くなる、めまいや息切れなどの貧血症状や血が止まりにくいといった症状が起こります。これらの症状は、白血球、赤血球、血小板といった血液成分が減少して起こり、重症になると命にも関わりますので、注意深く経過を見ていくことが必要です。

  • 感染に注意が必要です。感染予防対策の基本は、手洗い、うがい、口腔ケア、皮膚の保清(スキンケア)です。
  • かぜやインフルエンザに罹っている人、体調を崩している人との接触はさけましょう
  • 食事に関する制限に関しては、担当医の指示通りにしましょう。基本的には食材は新鮮なものを使用し、洗えるものは丁寧に洗いましょう。また、まな板や包丁などの台所用品や食器類も清潔にして使用しましょう
  • できるだけ毎日お風呂に入り洗髪もしましょう
  • めまいや立ちくらみなどが起きやすい時期は、動き始めに注意し、ゆっくりした動作を心がけましょう
  • からだがだるいなどの症状がある時には無理をしないで、休息をとりましょう
  • 入浴は適温で、長湯をしないようにしましょう
  • けがをしないように気をつけましょう
  • 歯ブラシの時に歯ぐきを傷つけないように注意しましょう
    また、唇が乾燥していると傷つき出血しやすいので、保湿も忘れないようにしましょう
  • 便秘で力むと出血しやすいので、便秘にならないように下剤を内服するなど早めに対処しましょう。また拭く時には肛門を傷つけないように、やさしく拭きましょう
  • 下着や服、靴などは圧迫しないものを選びましょう
  • 鼻を強くかまないようにしましょう
  • ひげそりは電気カミソリを使用し、強くこすらないようにしましょう