抗がん剤・放射線治療と食事のくふう

症状と対策

嗅覚の変化の解説

嗅覚は、味覚のように、異なるものに感じるというより、過敏になるか鈍感になって感じないか、両極端に分かれます。味覚の変化に伴って起こることも多く、自分で調理する場合に困ることが多いようです。外観では見えないだけに、症状もつらさも本人でなければわかりません。周囲に自分の感じ方を話して、いっしょに対策を考えてもらいましょう。

  • 嗅覚の変化で悩む患者さんの声

    治療の回数が増すごとに、においにとても敏感になり、注射後3日間は食事もあまりとれず、寝たきり生活だった。

    ほとんどの食べ物がパサパサした感じで味もにおいも感じられず、食事の味つけに困った。

    味覚も嗅覚もきかなくなり、うす味の食事のみが食べられる状態だった。

    においに敏感になり、家の中のにおいのするシャンプーや洗剤、化粧品をかたづけたり、家族の飲酒もやめてもらった。

    においと味に敏感になり、食欲が低下した。

    抗がん剤の体験がトラウマになっていて、特ににおいに敏感になったつらさを思い出す

    味覚も嗅覚も戻らないので、調理に差し支え、外食が多くなってしまった。

    においで吐き気が起こり、煮物や肉・魚料理は受けつけなかった。熱いもの、冷たいものもだめだった。

    放射線治療で嗅覚がなくなり、なにもにおわないのがつらい。

  • 医師から「粘り強く回復を待ちましょう」

    抗がん剤が嗅覚神経にダメージを与えるため

    においは、鼻の粘膜にある嗅覚受容器と呼ばれる細胞で感知され、神経を通じて脳の嗅覚中枢に送られて認識されます。抗がん剤によってこうした嗅覚神経の伝達網のどこかに障害が起こると、においを感じにくくなったり、過敏になったりします。積極的な予防策や治療法はありません。気長に構えて回復を待ちましょう。

    頭頸部への放射線療法が原因になることもあります

    頭部や頸部への放射線療法も、嗅覚の変化をもたらすことがあります。においを感じにくくなるだけでなく、においがまったくなくなることもあります。ただ、同じように頭頸部に放射線療法を受けても嗅覚に変化のない人もおり、まだそのメカニズムは予防法も含めてわかっていません。

  • 看護師から「好きなにおいで心身をリラックスさせるのも手」

    生活臭にも注意しましょう

    食事だけでなく、タバコや化粧品、芳香剤、生ごみなどの生活臭を敏感に感じる人も少なくありません。どちらかというと、人工的なにおいに過敏になることが多いようです。そのために吐き気やおう吐、胃の不快感などが生じて、食欲不振を招くこともあります。不快に感じるものを避ける最も手軽な方法として、マスクをするのもよいでしょう。

    不快なにおいは、歯や口の中の衛生にも要注意

    歯の衛生や口腔内の感染症が原因で嗅覚異常が起こることもあります。食後の歯みがきを励行し、口内炎などがないかこまめにチェックするなど、歯や口の中の衛生にも注意しましょう。

  • 栄養士から「においをおさえるくふうをしましょう」

    ほかほかメニューは避けましょう

    炊飯中のにおいや炊きたてのごはんやおかゆのにおいを不快に感じる人が少なくありません。ごはんやおかゆはさましてから食卓に出すようにしましょう。症状が強い場合は、すしや冷やし茶漬け、冷たいめん類にするとよいでしょう。蒸し物や揚げ物など、湯げとともににおいが発散するメニューも避けましょう。茶わん蒸しなら冷やして、揚げ物も南蛮漬けやマリネにすると、においが気になりません。

    肉や魚料理はにおいを残さないくふうを

    魚も刺身なら食べられるものです。肉もゆでて冷やししゃぶしゃぶにすれば、においが少なく、食べやすくなります。においが気になりやすい焼き魚も、大根おろしにポン酢しょうゆをかけてから食卓に出すとよいでしょう。煮魚は、白身魚をうす味で煮るより、青背魚でも梅干しやしょうが、みそなどの臭み消しになる食材を使って濃いめの甘辛味に煮るほうが喜ばれることもあります。

    冷たい料理でおいしく栄養補給

    においに敏感なうえ、味覚にも異変があると、食べられるメニューが限られてきます。そんなときは食べやすいメニューが見つかったら、食材を吟味してできるだけ栄養がとれるようくふうしましょう。いろいろな果物と野菜をミキサーにかけてゼラチンや寒天でかためてゼリーにしたり、冷ややっこにいろいろな食材を薬味代わりにのせたり、冷たい料理なら食材が増えても食べにくくなりません。

    野菜も香りの強いものは控えましょう

    しょうがやしその香りはむしろ好まれることもありますが、ハーブや香味野菜系のにおいは敬遠されるようです。苦手な患者さんが多かったのは、うど、セロリ、せり、にら、春菊、にんにくなどです。

    栄養士から「調理の負担を減らす生活の知恵はこれ!」

    調理の場にできるだけ近寄らないくふうを

    それまで家族の食事作りを一手に引き受けてきた患者さんは、自分がやらなくては、という思いから、がまんをして料理を作り続けてしまいがちです。でも、そのために食欲が低下し、食べられないために症状が悪化したのでは元も子もありません。症状が強くつらい日は、家族に調理を頼みましょう。調理のにおいが充満する台所を出たり入ったりすることも避けましょう。調理中は思いきって散歩にでも出てしまいましょう。気分転換になり、食欲が戻ってくるかもしれません。

    加工食品をじょうずに活用しましょう

    ひとり暮らしだったり、調理を頼める人が身近にいないなどで、においがつらくても、やむをえず自分で調理せざるを得ない場合もあります。その場合でも、いろいろなくふうをとり入れることで、つらさをやわらげることができます。一つはいうまでもなく、市販のお総菜や加工食品の利用です。ただし、お湯を注ぐだけのインスタント食品や、レトルト調味料など、加工度の高い食品はほどほどにしましょう。亜鉛の吸収を妨げる成分を含むので、亜鉛不足から味覚の変化が悪化することもあります。利用するときは、新鮮な生野菜や果物、卵や豆腐など、手軽に調理できる食品を添えて食べるなど、加工食品ばかりですませないことです。

    電子レンジで調理時間を短縮して

    調理中のにおいを減らすには、電子レンジを活用して加熱時間を短くするのも手です。ただし、時間が短くても、ラップをあけたときに立ち上る湯げとにおいはかなり強いので、ムッとくることがあります。青菜などの野菜なら、ラップに包んだまま水の中に入れ、さましてからラップをあけましょう。煮物や蒸し物などは、電子レンジから出したらそのままあら熱がとれるまでおいて、ラップをはずしましょう。水分の蒸発が少なくてすむので、むしろパサつかず、うまみが逃げず、味のなじみもよくなります。

    手作りの味をストックしましょう

    治療をすると症状が出て、しばらくすればおちつき、次の治療でまた症状が出る、というようなくり返しなら、症状がおちついたときに、手作り料理を作りおきにしてストックしておくのも手です。ごはん、ひき肉そぼろ、ゆで豚、魚の酢じめや照り焼き、ひじきや切り干し大根の煮物などがおすすめ。ピクルスや甘酢漬けなど、うす塩でそのまま食べられる漬物類もおすすめです。