がん放射線治療の
概要

がんの放射線治療について

放射線治療の方法

内用療法(ないようりょうほう)(非密封小線源治療)

放射線を出す物質(放射性同位元素:ラジオアイソトープ)を経口または静脈注射により体内に取り込む治療法です。体内に取り込まれた放射性同位元素はがん病巣に集まり、がん細胞の内部から放射線を照射して、がん細胞にダメージを与えます。また、取り込まれた放射性同位元素からの放射線が届く距離は短いので、周囲の正常細胞への悪影響が軽いのが特徴です。適応は、甲状腺がん、前立腺がんの骨転移、一部の悪性リンパ腫、神経内分泌腫瘍で、使用する放射性同位元素がそれぞれ異なります(下表参照)。

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放射性同位元素 適応 投与方法
ヨウ素131 甲状腺がん 内服
ルテチウム177 神経内分泌腫瘍 注射
ラジウム223 前立腺がんの骨転移 注射
イットリウム90 一部の悪性リンパ腫 注射

実際の治療では、内用療法(非密封小線源治療)の放射性同位元素(ほうしゃせいどういげんそ)を含んだ医薬品(放射性医薬品)を使用します。この医薬品は有効期間が短いので、原則、予定した治療日時は変更できません。スケジュールは必ず守るようにしてください。また、治療後体内に放射線が残っている状態ですので、念のため周囲への被ばく防止のために行動制限など、いくつかの注意事項を守っていただく必要があります(密封小線源治療と日常生活内用療法と日常生活を参照)。詳しいことは医師や看護師から説明がありますので、わからないことは確認しましょう。

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ヨウ素131の内用療法

放射性医薬品を服用します。これは、ヨウ素が甲状腺に取り込まれやすい性質を利用した治療法で、甲状腺がんの中でも「乳頭がん」、「濾胞(ろほう)がん」などが治療の対象になります。正常な甲状腺に集まってしまうと治療効果が低くなるので、手術で甲状腺を全摘した後に行います。治療目的は、甲状腺がん術後の再発予防または、甲状腺がん術後で、再発がんや肺転移など遠隔転移巣に対する治療です。
治療の目的により薬の用量が異なり、それによって、入院が必要になったり、通院治療が可能になったりします。また、甲状腺ホルモン薬の内服も中止する場合もあります。しない場合は、カプセルを服用する前に甲状腺刺激ホルモン薬を筋肉に注射します。なお、治療を受ける前の準備として、治療開始予定の2週間前より食事でヨウ素の摂取を制限する必要があります。

参考

ヨウ素を含む食品の例

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昆布、わかめ、ひじき、のり、もずくなどの藻類(加工品も含める)、魚介類(練り製品などの加工品も含める。ただし、いか、たこ、鮭、ホタテ貝を除く)。

ルテチウム177の内用療法

神経内分泌腫瘍細胞の表面に多く発現する「ソマトスタチン受容体」というタンパク質に結合する物質(ペプチド)にルテチウム177(放射性同位元素)を結合させた医薬品を注射して治療します。腫瘍細胞に結合後、細胞内に取り込まれ、細胞内から放射線を照射して、がん細胞にダメージを与えます。適応はソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍で、治療前には、ソマトスタチン受容体を確認する検査を行います。
治療は、8週間ごとに最大4回の注射をします。注射後は患者さんから放出される放射線量を測定し、高い場合は低くなるまで(多くの場合1~2日間程度)放射線を適切に管理できる病室に滞在する必要があります。

ラジウム223の内用療法

ホルモン療法の効果が得られなくなった前立腺がん(去勢抵抗性(きょせいていこうせい)前立腺がん)の骨転移に対する治療です。これは、ラジウム223(放射性同位元素)が骨の代謝が活発なところに集まりやすい性質を利用した治療法です。がんの骨転移の部位では骨が壊されるので、活発に骨の代謝が行われているような状態になっています。ラジウム223はそこに集まって放射線を照射し、がん細胞にダメージを与えます。治療は、通常成人には4週間ごと、最大6回までの投与が認められています。

イットリウム90の内用療法

リンパ球の一種であるB細胞の表面に発現する「CD20」というタンパク質に特異的に結合する性質の抗がん剤にイットリウム90(放射性同位元素)を結合させた医薬品を注射して治療します。適応は、悪性リンパ腫の中で、「CD20陽性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫」、「マントル細胞リンパ腫」です。
治療前には、この治療で異常な反応が出現しないかなど、その適正を診断するための検査を行い治療の可否を決めます。治療は入院して行います。

ちょっと注目

ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)

ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、中性子とホウ素を反応させて、がん細胞を攻撃する治療法で、がんの放射線治療の分野では、最先端の治療法の一つです。
この治療で使用されるホウ素は、がん細胞に集積する特性を持っています。そして、中性子とこのホウ素が反応すると粒子線が発生し、この発生した粒子線ががん細胞を攻撃して、がん細胞を死滅させます。
また、発生した粒子線が影響を及ぼす範囲は、一般的な細胞の大きさです。ホウ素はがん細胞に選択的に取り込まれているので、がん細胞だけに治療の影響が及ぶことになります。

2023年8月現在、保険診療が認められているのは、一部の頭頸部がんで、全てのがん種で受けられるわけではありません。また、治療できる医療機関も限られています。詳細はかかりつけの放射線腫瘍医にご確認ください。

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