抗がん剤・放射線治療と食事のくふう

生活と食事のくふう

1人分調理のコツと食生活のくふう

本書はがん患者さんの分だけを作りやすいよう、材料を原則として1人分で表記しています。ただ、1人分の調理はむずかしく、むだも多くなりがちです。 手間も食材もできるだけむだにしないよう、食事作りの負担を軽くするためのコツやくふうを紹介します。

1. なべは小さく、フライパンは大きく

1人分で作りにくい料理の筆頭は煮物や汁物です。1人分でも4人分でも火が通る時間は変わらないので、加熱中に蒸発する水分が1人分のほうが多くなり、食品に火が通る前に汁けが足りなくなったり、味が濃くなったりするからです。これを防ぐには、小さいなべを使うこと。汁物用は直径10~12cmの深めのものを用意します。煮物用はひとまわり大きい直径15cmくらいの浅いものを選びます。 ボールも直径7~8cmくらいの小さいものが2~3個あると、調味料を合わせたり、あえ物などに便利です。
フライパンは逆に大きいほうが便利。小さいフライパンでいためると食材が重なって火が通りにくく、水けが出たり焦がしたりしがちです。広いところで少量の食材を大きく動かせば、1人分の油でもまんべんなくなじみ、火の通りが早く、調理時間が短くてすみます。

2. パック調理でごはんとおかずを同時調理

ポリ袋に食材と調味料を入れ、炊飯器でごはんといっしょに炊きながら加熱する方法です。このパック調理は1人分の料理がなべなしででき、光熱費も節約できるのがメリットですが、以下の特徴を知っておきましょう。

  • ごはんが炊き上がる30分間、とり出すことができない。
  • 水分が蒸発しないので、料理が限られる。
  • 加熱中、アクが出る食材は向かない。
  • 炊飯器に入れたときにポリ袋が水面と平らにならないと、火の通りがむらになる。したがって、米は2カップ以上炊くほうがよい。

これらの特徴に合う料理は、おかゆ、雑炊、スープ、肉と野菜のスープ煮、ロールキャベツ、肉じゃが、カレー、煮魚などです。

調理のコツは以下の4つです。

  • アク抜きが必要な食材は下ゆでする。
  • 野菜は小さめに切り、火が通りにくい芋やごぼう、大根などは、あらかじめ電子レンジ加熱する。
  • ポリ袋に食材と調味料を全部入れて、空気をよく抜き、袋の上のほうをきつく縛る。
  • 炊飯器に米を入れて水加減をし、ポリ袋を顔が出ないように入れ、普通に炊く。

3. まとめて下調理して小分け冷凍

食材は少量になるほど割高です。まとめて買ったり、調理して、1回分ずつ小分けにして冷凍しておきましょう。肉や魚は、家庭の冷凍庫では、調味しないで生のまま冷凍すると雑菌が増殖する心配があります。料理を作るついでにい っしょに下調理して冷凍しておけば、次は違う料理に活用できます。
なお、野菜も基本的に、ゆでるか煮るかしておけば冷凍できますが、歯ごたえ、風味ともどうしても落ちるので、市販の冷凍野菜を利用するほうが得策です。

食材別冷凍のコツ

  • ごはん温かいうちにラップで包み、さめたらラップごと冷凍用袋に入れる。凍ったまま電子レンジ加熱する。
  • ゆでめん水けをよくきって冷凍専用袋に入れる。凍ったまま熱湯や煮汁に入れて調理する。
  • 薄切り肉塩をふったり、酒としょうゆをからめ、水けをふいて1枚ずつラップにはさんで冷凍する。冷蔵庫で自然解凍して好きな味に調理する。
  • ひき肉そぼろ 香味野菜のみじん切りとともにいためてそぼろにし、さめたら冷凍専用袋に入れる。冷蔵庫で自然解凍し、好きな味に調味する。
  • 肉団子、ハンバーグ、ロールキャベツ、ギョーザ、シューマイ自家製を作ったときに、火を通してからさまして冷凍専用袋に入れる。冷蔵庫で自然解凍し、温める。
  • 切り身魚柚香漬け、みそ漬け、粕漬けなどにして、味がしみたら魚をとり出し、ラップで包んで冷凍する。冷蔵庫で半解凍して焼く。

4. 市販食品は、新鮮な野菜や果物を添えて

最近は、調理ずみ食品の種類がぐんと増え、たいていのものを買ってすませることができます。でも、便利だからと、どれもこれも買っていたのでは、経済的にたいへんなだけでなく、市販食品特有のくせのある味に飽きてしまい、そのために食が進まないこともあります。心がけたいのは、市販食品を利用したときも、食卓に1品は生鮮食品を使った料理をのせること。特に水溶性ビタミン・ミネラルが補給できる野菜と果物を添えるよう注意しましょう。

市販食品の特徴と選び方

  • レトルト食品缶詰めと同じく、料理をまるごと密封して120度以上で加圧加熱殺菌してあるので、常温保存がきき、種類も豊富です。問題は、高圧高熱によって、ビタミンやミネラルが大量に失われること。特に亜鉛の欠乏が指摘されています。
  • 真空包装食品透明フィルムで包装され、袋が食品に密着しているのが特徴です。100度以下の加熱処理なので、「要冷蔵」保存の表示があり、冷蔵ケースで売られるのが本来ですが、スーパーのセールなどで、室温の棚に山積みされることがあるので注意してください。
  • 調理ずみ食品包装されている場合は、原材料名や添加物、賞味期間も表示されていますが、デパートなどで計り売りされているお総菜は、そうした情報を確かめる方法がありません。信頼できる店で買うしかありませんが、おかしいと思ったらすぐに問い合わせるなど、注意しましょう。
  • 冷凍食品保存料なしで保存でき、素材食品は季節を問わず手に入るのも大きなメリットです。注意したいのは、いったん家庭の冷凍庫に移したら早めに食べきること。また、解凍したものを再冷凍するのはタブーです。

5. だしは粉末タイプをブレンドすると手軽に楽しめます

汁物や煮物に使うだしは、天然素材でとるほうが、うまみ、香りともマイルドでくせがありません。それでも、嗅覚や味覚の変化によっては、症状を誘発することがあります。そんなときに重宝するのが、粉末の天然だしです。
粉末だしは、だしをとる手間がかからないのはもちろんですが、分量の加減が手軽にできます。写真で紹介した商品のように、カツオ節、こんぶ、煮干しなど、単品素材で作っただしなら、そのときの好みに合わせて組み合わせることもできます。
この商品に限らず、液体製品や濃縮製品など、いろいろなタイプの天然だしが市販されているので、使い勝手のよいものを見つけてください。