抗がん剤・放射線治療と食事のくふう

書籍版のご紹介

患者さんとご家族へ

静岡県立静岡がんセンター 栄養室長 稲野 利美

近年、さまざまな作用でがんを治療する薬剤が開発されてきています。また、治療に関する研究も進み、複数の異なった治療法を組み合わせて行う「集学的治療」など、治療の方法も多様化しています。たとえば、術後に再発のリスクを下げるため抗がん剤治療を予防的に行うほか、術前に抗がん剤治療で腫瘍を小さくして切除する場合もあります。また、抗がん剤と放射線療法をセットで行ったり、作用の異なる抗がん剤を組み合わせて使用したりする場合もあります。こうした治療法によって治療の幅や効果が広がる一方、副作用の症状が激しく現われたり、今までとは異なる副作用やさまざまな症状が一度に出たりすることもあります。

このような治療を受けながら、がんと向き合い、日々の生活をおくる患者さんやご家族の悩みや苦痛も、変化し、多様化してきているようです。そうした悩みに応えようと、さまざまな支援方法が検討されています。ですから、「困ったな…」というときは、一人で悩まず、まずは医療スタッフに相談してみてください。満足できる対応策はなかなか見つからないかもしれませんが、少しでも症状を軽くできるヒントが見つかるかもしれません。ご自身が受けられる治療法と副作用をよく知り、下の「治療を受けるあなたにできること」を参考に、治療に備えてください。

副作用を軽くするためにおすすめしたいのは口腔のお手入れです(「口腔内トラブルをやわらげる口腔ケアの基本とポイント」の「口腔ケア」参照)。治療中はどうしても口の中が荒れがちです。口の中をきれいに保つことで、治療中・治療後の感染症などのリスクを低下させることがわかっています。また、口の中に限らず、副作用の症状が出たら、その症状を医療スタッフに伝え、どんな対応ができるのかいっしょに考えてもらってください。それでも、どうしても食べられないときは、栄養状態を維持するために、他の栄養補給の方法を検討しなくてはならない場合もあります。

治療のためにも、日常生活を穏やかに送るためにも、“食べる(=栄養補給)” ことはとても重要です。この本でお伝えしたいのは一品一品のレシピというより、各症状に対する考え方と料理における対応方法のヒントです。ご自身の症状や好みに合わせてアレンジし、自分なりの対策やレシピを作り上げていただけたらと思います。

症状の原因を見つけるため、あるいは支援してくれる人たちとの相談材料として、この本をご活用いただけると幸いです。

治療を受けるあなたにできること ―― あなたが自分自身のために行うこと ――

治療開始前

  • 体のために必要な習慣を身につけ、生活にとり入れましょう。
  • 自分が受ける治療を理解し、副作用とその対処法を確認しましょう。
  • タバコは吸わない。お酒は控えめに(できれば禁酒)。
  • 持病(糖尿病や高血圧など)の管理をしっかりする。
  • 口のケアを身につける(歯科で虫歯や歯周炎のチェック、正しい歯みがきやうがいの仕方などを覚え、実行する)。
  • 手洗いの方法を覚え、習慣づける。
  • 睡眠を調整し、充分な睡眠をとる。
  • 治療のスケジュールを確認する。
  • 治療で生じる可能性のある副作用とその対処法を確認する。
  • 医師や看護師に、副作用の症状などで病院に連絡が必要な場合を確認する。

治療中

  • 自分の体の変化や起こった症状をふり返り、次の治療に備えましょう。
  • 医師や看護師に、体の変化や副作用の症状を伝えましょう。
  • 一人でがんばりすぎないように注意しましょう。
  • 治療日記をつけて、治療による自分の体の変化や副作用について理解する。
  • 自分でできる対処法を実行する。
  • 治療開始後に起こった症状や変化をふり返り、次に備えてイメージする。
  • 効果のあった対処法と、効果のなかった対処法を整理する。
  • 医師や看護師に、自分の状況(副作用の状況、体、心、暮らしのつらさなど)を伝える。
  • 体や心がつらいときは、一人でがんばりすぎない。
  • 無理をしない。

治療終了後

  • 体力回復のために、エネルギー(カロリー)やたんぱく質を積極的にとりましょう。
  • 適度な運動の習慣を身につけましょう。
  • 食事からの栄養を意識し、エネルギー(カロリー)やたんぱく質を積極的にとるように心がける。
  • 軽い運動から始め、有酸素運動などを生活の中にとり入れる。
  • 手洗いや口腔(口の中)のケアなどの習慣を続ける。